2014年3月20日木曜日

日本の“積極的アタック”にとまどう米国:尖閣防衛の協力を迫っても米軍は動かない

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●.戦闘部隊艦艇に算入されることになった沿岸パトロール艇(写真:米海軍)


●.戦闘部隊艦艇に算入されることになった病院船「コンフォート」(写真:米海軍)


JB Press 2014.03.20(木)  北村 淳
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40210

日本の“積極的アタック”にとまどう米国尖閣防衛の協力を迫っても米軍は動かない

 1997年に改定され今日も引き続き用いられている「日米防衛協力のための指針」を17年ぶりに見直すということで、日米実務者間の会合が、ホノルル郊外の太平洋海兵隊司令部、それに太平洋軍司令部がある海兵隊キャンプ・スミスで開催された。

 この会合にはアメリカ軍からも海軍、陸軍、空軍そして海兵隊からも現役将校が参加し、防衛省自衛隊の実務担当者たちと意見交換を行った。

 ただし、すでに会合以前から言われていたように、日米間には対中戦略(というよりは作戦レベルも含まれる)での基本姿勢に隔たりがあり、その溝を埋めて日本側の思惑を実現させるのはなかなか容易ではないようである。

■1997年版ガイドラインでは軍事行動に消極的だった日本

 1997年に改定された「日米防衛協力のための指針」すなわち現行ガイドラインでは、日本側が“軍事的要素”を極力排除しようとした消極的態度が強かった。

 例えば、英語バージョンでは「情報と諜報の共有(information and intelligence sharing)」という部分の日本語バージョン(外務省作成和文正文)は単に「情報交換」となっており、軍事的意味合いが強い「諜報(intelligence)」という語は排除されている。
 この部分以外にも合わせて16回用いられている「諜報」という言葉は、日本語バージョンでは全て無視されている。

 また、日本側にも米国側にも行動責任がある「双務的(bilateral)」という語は、英語バージョンでは45箇所も登場するのだが、和文バージョンでは全く使われていない。

 このような意図的な単語の削除は、日本外務防衛当局が積極的に共同防衛の任に当たる姿勢を煙にまこうとする軍事的消極態度の表れであったと考えられる。

■日本の積極的姿勢に面食らうアメリカ側

 だが今回の改定作業では日本側が俄然積極的になっていることに、アメリカ側の実務者たちは少々驚いている。


●“Rising Red Star”中国海洋戦力にガイドライン改定でどのように対抗するのか(写真:人民解放軍)

 確かに、中国海洋戦力の飛躍的増強だけでなく、北朝鮮の危険性の増大やロシア軍事力の復活、世界的規模での対テロ戦争の泥沼化といった軍事的国際環境の変化や、通信手段の飛躍的変化、宇宙空間の軍事利用の発達といった軍事技術の変化などに対応した、新しい姿の共同作戦に関する方策をガイドラインに盛り込むことは当然の成り行きであると考えられる。

 しかしながら、日本側は幅広い地政学的環境変化というよりは、増強著しい中国人民解放軍の脅威への対抗策に関心を集中させているようである。
 とりわけ尖閣諸島をはじめとする中国による覇権主義的海洋進出に対抗すべく、極めて具体的なシナリオを持ち出してアメリカ側による対日軍事支援に関する明確な姿勢を引き出そうとしている。
 これにアメリカ側実務担当者たちはかなり面食らっているようである。

 例えば、日本側は「人民解放軍による尖閣占領と奪還」といった日中軍事衝突という有事のみならず、
 「中国の軍艦ではない船舶、例えば漁船や監視船が大量に尖閣諸島に押し寄せた場合の対処」
 「漁民などに擬装した人民解放軍によって尖閣諸島が占領された場合の対処」
といった『国家安全保障戦略』にいう“グレーゾーン”に該当するような事態においても、米軍による具体的方針を引き出そうとしている。

■アメリカ政府の“曖昧”な態度を変えさせたい日本

 このように日本側が尖閣問題で具体的な対処を盛り込みたいと考えているのは、
 尖閣諸島に関する「アメリカ政府の態度がはっきりしない」からである、
とする論調が日本には根強いようである。

 しかしながら、アメリカ政府の尖閣問題に対する態度ははっきりしている。

 アメリカ外交には第三国間の領域紛争には関与しないという鉄則がある。
 この鉄則は、当事者に同盟国が含まれている場合でも、無関係の三国間の場合でも等しく維持するのが歴代アメリカ政府の原則である。

 アメリカ政府は国際常識的観点から尖閣諸島は日中間(プラス台湾)での領域紛争と見なしている。
 したがって、「尖閣諸島の領有権は日本にある」と公式に認めることができないのがアメリカが遵守している外交鉄則なのである。

 ただし歴代アメリカ政権は同盟国日本に配慮して、日本による尖閣諸島に対する施政権(立法、司法、行政の三権を行使する権限)の存在は公式に認めている。
 そして、尖閣諸島と日米安保条約の関係を日本の閣僚などがしつこく確認するのに対して、
 「尖閣諸島に日本の施政権が及んでいる以上、尖閣諸島に関して武力衝突が発生した場合には、日米安保条約の対象となる」
と繰り返し明言している。

 ただし、安保条約第5条は、NATO条約第5条のように集団防衛を定めたものではないため、尖閣周辺で日中間に武力衝突が発生しても、自動的にアメリカが直接軍事的に日本を支援するわけではない。

 もし、アメリカ政府が尖閣諸島の領有権が日本にあることを認めていたならば、直接軍事介入のハードルは極めて低くなる。
 しかし、施政権の存在だけは認めるという態度を維持している限り、尖閣問題でのアメリカ政府による対日軍事支援は極めて曖昧な状態が続いてしまう。

 そこで、今回のガイドライン改定に際してアメリカ側の尖閣諸島に対する確固たる態度を引き出すべく(といってもガイドラインに尖閣防衛といった具体的事例を盛り込むわけにはいかないため)“グレーゾーン”事態に対する共同防衛を明示しようというのが、日本側の目論見と考えられる。

■今日のアメリカはかつてのアメリカではない

 しかしながら、現在のアメリカ軍そしてアメリカ社会は、1997年版ガイドライン策定当時からは大きく変化してしまっている。

 2001年9月11日の同時多発テロ攻撃を境にして開始された対テロ戦争により、アメリカ軍は財政的にも人的資源的にもそして戦略的にも疲弊してしまっている。
 加えてオバマ政権による大幅な国防費削減ならびに強制財政削減措置により、かつてのように同盟国や友好国を“防衛する”ために世界中に軍隊を送り出す余裕はなくなりつつある。

 もっとも、アメリカ社会自体も余裕がないため、他人のことを気遣う風潮など目に見えて薄れてきている。
 他国のために莫大な軍事予算と人命までをも犠牲にして“アメリカの栄光”を維持しようといった国民的気質も急速に失われつつある。

 このような状況であるにもかかわらず、日本側にはオバマ政権が強調している「アジア重視政策」を日本防衛に都合の良いように解釈している傾向がある。

 例えば、「アメリカ軍全体の予算・人員・戦力など全てが削減される中でアジア太平洋方面には重点配備がなされる」といった方針を、あたかも「日本防衛を重視し対中警戒態勢を強化する」といった具合に手前勝手な報道をするメディアも存在している。

 しかしながら「海軍艦艇の60%を太平洋方面に配備する」と言ってはいるものの、実際のところ“からくり”が存在している。

 アメリカ海軍は海軍戦力の著しい低下が強調されてしまうのを避けるために、戦闘部隊艦艇の数え方を変更した(戦闘部隊艦艇とは基本的には敵軍艦との戦闘に投入される部隊の軍艦という意味である)。
 すなわち、病院船や小型沿岸警備用パトロール艇なども戦闘部隊艦艇に算入して、数字上戦力の低下を最小限に食い止めようとしているのだ(米連邦議会下院軍事委員会海軍力小委員会委員長フォーブス議員は、このような動きを「紙の軍艦で現実の敵と戦うのか」と批判している)。
 したがっていくら6割の艦艇が太平洋方面に配備されるといっても、実質的戦力強化にならないことは明らかである。

 これはほんの一例であり、中国人民解放軍の戦力増強と東アジア地域に展開する米軍戦力を客観的に比較すると、戦力増強などとは程遠い状態であると言わざるをえない。

■すれ違う日米の思惑

 もっともアメリカ側も日米同盟を強化しようとしているのは事実である。
 そして日米同盟に限らず、オーストラリア、フィリピン、韓国、タイなどとの間の同盟をも強化しようとしている。

 ただし、日本側が期待している日米同盟の強化というのは「アメリカが現在以上に日本防衛のために強力なテコ入れをしてくれる」という意味での強化であるが、アメリカ側の同盟強化とはそのような意味は持っていない。

 あけすけに言えば、日本をはじめ同盟諸国にこれまでアメリカが担ってきた軍事努力の一部、それもアメリカのマイナスにならない限度において、できるだけ多くの部分を肩代わりさせていこうという意味での同盟強化と言うことができる。
 これは、財政的にも戦略的にも余裕がなくなってきたアメリカ政府にとっては当然の流れであり、少なくともオバマ政権下ではこうした傾向が続くものと思われる。

 突出したスーパーパワーの座から滑り落ちつつあるアメリカとの「日米防衛協力のための指針」改定には、上記のようなアメリカ側の政治的理由に基づいた障碍が立ちはだかっている。

 それ以外にも、少なくとも日本側が拘泥する尖閣諸島に関する“グレーゾーン”事態共同作戦に関しては、「日本側の軍事的能力に関するアメリカ側の不安」という別の障碍(しょうがい)も存在しているようである。この点に関しては次回に触れさせていただくことにしたい。

北村 淳 Jun Kitamura
戦争平和社会学者。東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業。警視庁公安部勤務後、平成元年に北米に渡る。ハワイ大学ならびにブリティッシュ・コロンビア大学で助手・講師等を務め、戦争発生メカニズムの研究によってブリティッシュ・コロンビア大学でPh.D.(政治社会学博士)取得。専攻は戦争&平和社会学・海軍戦略論。米シンクタンクで海軍アドバイザー等を務める。現在サン・ディエゴ在住。著書に『アメリカ海兵隊のドクトリン』(芙蓉書房)、『米軍の見た自衛隊の実力』(宝島社)、『写真で見るトモダチ作戦』(並木書房)、『海兵隊とオスプレイ』(並木書房)、『尖閣を守れない自衛隊』(宝島社)等がある。



JB Press 2014.03.27(木) 北村 淳
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40273

米軍から見るとアマチュア?
日本の島嶼奪還シナリオが通用しない理由

 前回は、中国による覇権主義的東シナ海侵出への対抗策、とりわけ尖閣防衛態勢に関しては、アメリカ側の政治的障碍によってなかなか日本側の思惑通りに事が進まない事情を概観した。
 それに加えて、「日本側の軍事的能力に関するアメリカ側の不安」も障碍となっていると指摘した。

 「日本側の軍事的能力に関するアメリカ側の不安」
といっても、
 自衛隊が弱体で、共同作戦など実施しようものならアメリカ軍も多大な損害を被ってしまう、
といった類の不安ではない。
 自衛隊に対してそのような不安を抱いている者は、少なくとも筆者周辺の自衛隊を知るアメリカ軍関係者たちには見当たらない。

 そうではなく、「中国の軍事的脅威への対処」という目に見える形での日米防衛協力が必要とされるようになった状況によって浮き彫りになってきた、大は日本側の国防に関するビジョンといった国防戦略レベルから、小は島嶼防衛における基本方針といった作戦レベルに至るまでの、日米両国間に存在する戦略・戦術論的すれ違いに関する不安である。

 本稿では、日本側とアメリカ側の離島部防衛に関する食い違いに焦点を当てて垣間見ることにする。

■尖閣諸島を想定したがらないアメリカ

 欧米のメディアに対して日本防衛当局関係者は次のように語っている。
 「日本側は
 『中国の漁船などが大挙して尖閣諸島に押し寄せた場合に、日米両国はどのような協力ができるのか?』
 『漁民などに扮した人民解放軍部隊によって尖閣諸島が占領された場合、日米はどのような共同作戦を実施できるのか?』
といった所謂グレーゾーンのシナリオも含めて具体的な日米協議を実施したいと考えている。
 しかし、アメリカ側はとりわけ尖閣諸島を想定したシナリオに関する議論はしたがらない」

 同様に自衛隊幹部も、
 「米軍側は合同演習などでも尖閣諸島奪還作戦を想定したシナリオのような訓練は実施したがらない」
とアメリカ側の対中及び腰に不満を漏らしている。

 要するに、「日米防衛協力のための指針」改定のための日米協議に臨むにあたって、“尖閣占領・奪還”といった具体的なシナリオの検討を叩き台にして“より緊密な”日米連携をガイドラインに盛り込もうとする日本側に対して、アメリカ側は政府にしろ軍にしろそのような具体的な、とりわけ軍事衝突に至る以前のグレーゾーン事態まで含めての協力に関しては消極的な姿勢を維持しているのである。

■日本側のシナリオはなぜ“アマチュア”なのか

 アメリカ側とりわけ米軍関係者が“尖閣占領・奪還シナリオ”に乗り気でない最大の理由はなにか。
 それは、米軍が中国との軍事衝突に引きずり込まれるのを恐れているからでも、中国による日米分断を図るための米軍に対する特殊作戦が功を奏しての結果でもない。

 そもそも人民解放軍侵攻部隊にせよ漁民に偽装した特殊部隊にせよ、尖閣諸島を占領して、その占領された島嶼を自衛隊(+アメリカ支援軍)が奪還するというシナリオ自体、アメリカ側が考えている島嶼攻防戦のシナリオに照らすと、検討すべきプライオリティが低い。
 というよりは、「占領・奪還」というシナリオを実施するための態勢構築は、それ以前に構築すべき「占領阻止」というシナリオを実施する態勢を整備してから推進すべきものであると考えているからである。

 さらに言うと、人民解放軍が尖閣諸島の魚釣島を占領するにあたって、
 占領作戦とそれに付随する作戦以外の対日軍事行動は行わないというシナリオは、海兵隊将校の言葉を借りると「あまりにアマチュアな」考えに過ぎる。

 (本題から離れるため詳述しないが、
 人民解放軍が日本に対する軍事作戦に踏み切る場合には、間違いなく多数保有している長距離巡航ミサイルや場合によっては非核弾頭装着の弾道ミサイルにより日本各地の戦略目標を攻撃し、あるいは攻撃すると恫喝し、
 自衛隊の戦力を分散させるのが大前提となるであろうことは、中国の戦争哲学ならびに近年の常軌を逸した長距離巡航ミサイルの大増産から容易に読み取れる。
 したがって、中国の軍事作戦を考える大前提として、人民解放軍が躍起になって揃えている各種長距離巡航ミサイルや弾道ミサイルによる恫喝や攻撃を大前提にせずに、尖閣占領作戦のみを実施すると考えるのは非現実的な状況を前提にしている“アマチュア”なシナリオなのである)

 百歩譲ってこのような非現実的シナリオを考えた場合でも、人民解放軍に占領されている魚釣島に自衛隊やアメリカ海兵隊の上陸部隊を送り込んで奪還する必要性は存在しない。
 無人の尖閣諸島には保護すべき島民はいないし、保存しなければならない施設も存在しない。
 したがって、大量の長距離巡航ミサイルや誘導爆弾によるアウトレンジ攻撃により魚釣島を占領中の人民解放軍部隊を全滅させてしまえば、中国による占領状態は終結することになる。なにも多数の自衛隊員や海兵隊員の人命を犠牲にしてまで「奪還作戦」を実施する理由はない。

■島嶼奪還作戦は想像を絶するほど困難で過酷

 もちろん人民解放軍はこのような“アマチュア”な作戦は実施しないであろう。
 万一中国指導部が尖閣を占領する程度に腹をくくって軍事力を発動するのであるならば、むしろ宮古島や石垣島のような、飛行場も港湾施設もあり地形も複雑で何よりも多数の住民が生活している軍事的価値の高い先島諸島の島を占領するに違いない。

 もし宮古島を占領されてしまった場合に宮古島を奪還するには、自衛隊(+アメリカ軍)は
(1).宮古島周辺海域と空域から中国軍航空機や艦艇を締め出し、
(2).宮古島と中国本土を結ぶ中国側補給線(複数)を寸断し
(3).宮古島と沖縄本島さらに九州などを結ぶ日本側補給線を確保し、
(4).宮古島周辺海域の掃海(機雷の除去)を実施し、
(5).宮古島に接近上陸着陸し、
(6).多数の島民を保護しながら、
(7).占領中の人民解放軍侵攻部隊を撃破する
必要が生ずる。

 「このような強襲上陸作戦の困難さを日本側は理解しているのであろうか?」
と米海兵隊幹部は心配している。
 いったん敵に島を占領されてしまった場合にその島を奪還するのは極めて複雑かつ困難な最高度の水陸両用作戦(海空陸全戦力による密接な統合作戦)である。

 それにもかかわらず、日本側は最初から「取らせてから取り返す」と公言してはばからない(もっとも日本側は「尖閣占領・奪還」に限定はしている模様であるが)。
 このような傾向に対して
 「第2次大戦中に日本軍守備隊が立て籠もる太平洋の島々を奪取したアメリカ軍の経験を学んでいるのか?」
との感想も耳にする。


●アメリカ海兵隊と日本軍守備隊の間で激戦が展開されたタラワ上陸戦で焦土と化した海岸線(写真:米海兵隊)


●硫黄島攻防戦では日本守備隊はほぼ全滅しアメリカ海兵隊は日本側以上の損害を出した(写真:米海兵隊)

 もちろん、何らかの事情により人民解放軍に島嶼を占領されてしまった場合に備えて「占領・奪還」作戦を研究し準備を進めることは無駄とは言えない。
 しかし、島嶼防衛の基本方針が「取らせてから取り返す」では、島民にとってはたまったものではない。
 あくまでも島嶼防衛(離島部防衛のみならず日本という“島”全体の防衛も島嶼防衛である)の基本方針は「取らせない」ことを理想としなければならない。

 アメリカ側それも日本のような島嶼地形における対人民解放軍戦略を考えている軍関係者たちにとっては、「取らせてから取り返す」ための「占領・奪還」シナリオよりも「取らせない」ための「邀撃・撃破」シナリオの方が数等倍プライオリティが高い課題であるということになっているのである。

 要するに、アメリカ側としては、人民解放軍から尖閣を含む先島諸島などのいわゆる離島部を防衛するために“ようやく”本腰を入れだした日本政府や防衛当局の姿勢は極めて高く買っているものの、初っ端から日本側が拘泥しているのが「取らせてから取り返す」ためのシナリオでは本末転倒ではないかというわけである。

■再認識すべき島嶼防衛の基本方針

 日本防衛当局や多くのメディアは、島嶼防衛というと尖閣諸島のみをクローズアップしている。
 そして、尖閣諸島防衛の基本方針を「取らせてから取り返す」と公言して「尖閣占領・奪還」シナリオに拘泥している。
 しかしながら、上記のように、実際には尖閣は占領されても奪還せずに占領状態に終止符を打つことができる。

 なによりも日本にとっての島嶼防衛は、尖閣防衛だけではなく、日本列島全体をも含んだ多数の有人島嶼の防衛をも意味していることを忘れてはならない。
 そして、「取らせてから取り返す」方針は、上記のように米海兵隊が指摘するまでもなく、有人島嶼の防衛策としては下策であることは明らかである。

 確かに、6000以上の島嶼を有する日本が「取らせない」ことを理想とする防衛体制を構築するのは容易ではない。
 しかし、だからといって「取らせてから取り返す」方針もまた想像を絶するほどに困難で過酷な戦いを強いられ、間違いなく多数の非戦闘員と戦闘員の命が失われることは確実である。
 それならば、やはり古今東西の戦史をもとにしたセオリーにしたがって「取らせない」、すなわち「外敵に一歩も上陸させない」ことを理想とする方針を確立する努力を開始しなければならない。

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北村 淳 Jun Kitamura
戦争平和社会学者。東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業。警視庁公安部勤務後、平成元年に北米に渡る。ハワイ大学ならびにブリティッシュ・コロンビア大学で助手・講師等を務め、戦争発生メカニズムの研究によってブリティッシュ・コロンビア大学でPh.D.(政治社会学博士)取得。専攻は戦争&平和社会学・海軍戦略論。米シンクタンクで海軍アドバイザー等を務める。現在サン・ディエゴ在住。著書に『アメリカ海兵隊のドクトリン』(芙蓉書房)、『米軍の見た自衛隊の実力』(宝島社)、『写真で見るトモダチ作戦』(並木書房)、『海兵隊とオスプレイ』(並木書房)、『尖閣を守れない自衛隊』(宝島社)等がある