2014年4月22日火曜日

風雲急を告げる台湾情勢(5):台湾で再び反・馬英九が活発化、退任までに中台問題を進展させることは困難

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●1日、米ラジオ局ボイス・オブ・アメリカ(VOA)中国語版サイトは、「馬英九の退任前に中台問題の打破は困難」と題した記事を掲載した。資料写真。


サーチナニュース 2014-04-21 18:15
https://www.youtube.com/watch?v=PvwxS1OnoWc

台湾で再び反・馬英九が活発化か・・・反原発で22日に国会包囲か

 台湾では、核四(第4原子力発電所)の建設を巡り、反・馬英九の動きが改めて活発化しそうな状況だ。
 林義雄民進党元主席は21日までに、原発推進反対の意思表示のため、22日にハンガーストライキを開始すると表明した。
 核四発電所についてはもともと反対の声が多かったが、馬英九政権側が2013年3月に「(同年)8月を目途に住民投票を行う」と表明しながら、住民投票に言及しなくなったことなどで、政権批判の声が高まった。
  林元主席はハンストで「核四については住民投票の多数決で解決すべきだ」と主張。

 一方、学生の間では、22日夜に立法院を包囲する動きが出ている。
 台湾独立を主張する政治団体の公投護台湾聯盟は学生らに向け、「原発反対のため、立法院に戻れ」と呼びかけた。
  民進党は、核四原発の住民投票について特別法の成立を目指している。
 従来の住民投票で意見を通すには有権者の2分の1の投票と、有効投票数の過半数の支持が必要とされるが、民進党は、核四の問題については投票率を問題にせず、有効投票の単純な多数決で核四の建設の停止か続行を決めるべきと主張している。
 
 政局を混乱させつづけている馬英九総統に対しては、国民党内部でも批判的な声が高まっている。
 国民党所属の呉育昇委員(議員)は、いかなる形式であれ、馬英九総統と民進党の蘇貞昌主席が話し合うべきであり、住民投票についても「すべて、話し合えることだ」と指摘。
  呉委員は
 「反原発の民意の高まりに加え、民進党は1歩、1歩、歩みを進めている。
 国民党陣営も民進党陣営も、核四の問題で馬英九総統に批判の矛先を向けている」
と述べた。



レコードチャイナ 配信日時:2014年5月3日 14時32分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=87504&type=0

台湾の馬英九総統、退任までに中台問題を進展させることは困難―米報告書

 2014年5月1日、米ラジオ局ボイス・オブ・アメリカ(VOA)中国語版サイトは、「馬英九(マー・インジウ)総統の退任前に中台問題の打開は困難」と題した記事を掲載した。

 米中経済安全保障調査委員会(USCC)が4月30日に発表した報告書によると、中国の張志軍(ジャン・ジージュン)国務院台湾事務弁公室主任と台湾の王郁[王奇](ワン・ユーチー)大陸委員会主任委員は今年2月、中国・南京市において歴史的な会談を行った。
 両氏は
 「中国と台湾が経済だけでなく、その他の協議も進展させていくことが、この地域の安定を助けることになる」
との見方で一致した。

 一方で報告書は、海峡両岸サービス貿易協定に対する台湾での激しい抗議活動や、年末の統一地方選、中台両岸の政治目標からのかい離などが、中台関係の発展にとっての障壁になる恐れがあると指摘。
 馬英九総統は国民党への支持を集めるために、今後は中台関係よりも台湾の内政問題に力を入れる可能性が高いという。
 2016年には総統選挙もあることから、馬英九総統が退任までに中台関係で思い切った決断をすることはないとしている。



JB Press 2014.05.06(火) 
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40558

中国への接近に「NO」を突きつけた台湾の「ひまわり学運」
方向転換を迫られる馬英九政権

 4月10日、台湾で24日間にわたって立法院を占拠していた学生たちが自主的に撤退した。
 学生たちの行動は、日本に置き換えてみれば国会議事堂を学生が占拠したに等しいから、過激な行動であったことは間違いない。
 しかし、その行動は非暴力に徹し、非常に組織立って遂行されたこともあり、これら学生たちを多くの台湾市民が支持したことも事実である。
 台湾ではこの学生運動を「ひまわり学運」と呼称している。

 学生たちによる立法院占拠のきっかけは、中台の自由貿易取り決め(「経済協力枠組み協定」: ECFA)に依拠し2013年6月に中台間で調印された「サービス貿易協定」の批准手続きを、与党・国民党が強硬に採決しようとしたことである。
 与党・国民党は規定の3カ月の討議期間が過ぎたことを理由に採決の審議を打ち切ったのだった。

■「なし崩し的な中台統一」実現への懸念

 学生たちの行動は、野党・民主進歩党との連携に基づくものではなく自主的な行動であった。
 なぜ、この学生たちの過激な行動に支持が集まったのか。

 中台の緊張緩和を訴えて誕生した馬英九政権は1期目の2010年6月に中国との間でECFAを締結し、同年9月には発効した。
 東アジア地域で進展する自由貿易協定(FTA)のネットワークから取り残されてきた台湾にとって、中国とECFAを締結することによって他国との自由貿易協定策定に向けた協議開始のきっかけとしたかったことは明らかだった。

 実際、その後、台湾とシンガポールやニュージランドとの間で自由貿易協定が締結されている。そうした意味で言えば、馬英九政権のECFA推進は、台湾を東アジアで進展する自由貿易協定のネットワークに組み入れるための「正しい選択」であったし、中台経済関係の発展を台湾の市民も受け入れたからこそ、2013年に馬英九が総統に再選されることとなった。

 ただしうがった見方をすれば、台湾の選挙民は、馬英九政権の選挙公約であった「不統、不独、不武(統一せず、独立せず、武力行使させず)」という対中政策のうちの、中国との「統一せず」という公約について、総統就任後馬英九自身が「統一という選択肢を排除するものではない」と発言したこともあって疑念を抱いていたが、
 野党・民進党が馬英九政権の対中政策よりも支持を集めることのできる穏当な政策を打ち出せなかったことが馬英九再選につながったと見てよいだろう。
 その馬英九政権の1期目は、ECFA締結という成果を得たとは言いながら、リーマン・ショックもあり台湾の経済状況は低迷したままであったから、2期目を目指す馬英九は厳しい選挙戦を戦わざるを得なかった。

 結局、2012年の総統選挙でも、中国との関係を安定的に発展させることができるのは馬英九の方だろうという対中政策の消去法で、馬英九は民進党の蔡英文候補を破り再選につながったわけだ。

 ただし、結果として再選されたとはいえ、馬英九政権の支持率は低迷を続けることとなり、2013年9月に中国との「サービス貿易協定」批准手続きに積極的でなかった王金平・立法院長から馬英九総統が国民党籍を剥奪しようとした政争が起きて以来、支持率は史上最低の9%にまで低下し、以来レームダック化が進んでいた。

 しかし政権2期目の馬英九にとり、歴史に名を残すチャンスとして2014年秋に北京で開催されるAPEC総会に出席し、中国の習近平主席と歴史的な中台首脳会談を実現させようとするのではないか、ということが噂されてきた。

 実際、2014年2月には台湾の行政院大陸委員会の王郁琦主任委員が訪中し、中国側のカウンターパートである国務院台湾事務弁公室の張志軍主任との間で、中台の閣僚レベルでの史上初めての会談が実現し、まさに中台首脳会談の「地ならし」とも見られたのである。
 この流れに沿って習・馬会談が実現すれば、将来的な中台の「統一」を視野に入れた政治協議開始のきっかけともなり得る可能性が生み出されることになる。

 こうした中台の政治的接近に加え、このままECFAによる中台の経済的一体化が進行すれば、台湾が中国に経済的に飲み込まれてしまうという危機感が台湾の学生に過激な行動を選択させることになったと言ってよいだろう。

 ただし、台湾政府の説明不足もあって、おそらく学生たちの多くはサービス貿易協定の内容について十分に理解していたとは思えないし、学生の行動を支持した一般市民も同様であろう。
 要は、馬英九政権の対中融和政策が進める中台の経済的接近がもたらす台湾の将来への不安、すなわち「なし崩し的な中台統一」への懸念が学生たちの行動の背景にあったと言ってよい。

■馬英九総統の権威はますます失墜、経済も打撃

 こうして見てくると、学生たちの過激な「立法院占拠」という行動にはそれなりに「合理的な背景」があったように見える。
 しかし、地域経済統合というグローバリズムの流れの中で今回の学生たちの行動を位置づけて考えると、いささか留保を付けざるを得なくなるようにも思えるのである。

 例えば、2013年秋に台北で開催されたシンポジウムに出席したとき、台湾側出席者から「中韓自由貿易協定」が締結されると台湾経済が大きな打撃を受けることになるという意見を聞いた。
 東アジアの経済ネットワークに加わることで台湾の国際的な生存空間を拡大することの重要性があることに加え、その中で台湾にとって、とりわけ中国大陸との経済関係が死活的な意味を持つ現実を押さえておかなければならない。

 また、将来的には台湾も米国の主導する環太平洋経済連携(TPP)への参加に意欲を見せているが、ここで台中サービス貿易協定の批准が白紙に戻るとすれば、台湾の経済外交は当面ストップを余儀なくされ、かつ台湾当局の対外交渉における国際的な信用も傷つくことになる。

 いずれにしても、今回の「ひまわり学運」がもたらしたこととして指摘し得るのは、馬英九訪中による中台首脳会談の実現可能性が吹っ飛んだということであり、中国とのサービス貿易協定の批准手続きが仕切り直しとなった現実から、ますます馬英九総統の権威が失墜しレームダック化が深刻になるだろう。
 当面、中台の関係は冷え込むであろうし、中国は経済的に台湾を抱き込むことの限界を認識することになったと言えるかもしれない。

■強化される米台関係

 まさにそうした時に、台湾の安全保障の拠り所となっている米国の「台湾関係法」が成立35周年を迎えた。
 1979年4月に議会で立法され、同年1月にさかのぼって施行された米国内法であり、同年末に廃棄されることになっていた「米華相互防衛条約」に代わって、直接的にではないにせよ米国が台湾の防衛に防衛用の武器売却を含めコミットメントを継続する法律である。

 中台のサービス貿易協定が台湾内政に混乱をもたらし、今後の台湾の政治動向が不透明さを増す中で、4月3日に米上院外交委員会アジア太平洋問題小委員会において、台湾関係法の施行35周年を記念し米国の台湾政策を評価するための公聴会が開かれた。

 公聴会で証言したランドール・シュライバー元国務次官補代理は、台湾の学生運動に触れ、
★.「台湾海峡両岸においてこれ以上中国と経済的結びつきを深めることが台湾民衆の受け入れの限度に達したことを示す」
★.「(学生たちの)抵抗は中国(mainland)とのさらなる統合に向かう台湾についての深く根ざした懸念と疑いを明示するもの」
という見解を明らかにした。
 こうした見解は、馬英九政権の進めてきた中台融和政策と、それを支持してきたオバマ政権への批判を含むものと捉えることができよう。

 また、シュライバー氏は、中国の台湾に向けた軍備増強に対し、
★.「つまるところ、もし意思決定がなされれば、
 中国の軍事指導者たちは物理的に台北を占領する試みを支える能力を目指している」
として、台湾が中国の軍事的脅威にさらされていることを指摘する。

 それを踏まえてシュライバー氏は、台湾の防衛に関する米台関係強化の一環としていくつかの提言を行っている。
 その中に、
★.台湾によるディーゼル潜水艦の建造を米国の国防産業が支援する選択肢を挙げている。
 2001年のブッシュ・ジュニア政権時に提示されて以来、「店晒し」の状態に置かれていたディーゼル潜水艦供与問題がここで具体的に取り上げられたことに注目すべきだろう。
 というのも、近年、台湾で国産潜水艦建造が議論されていた経緯があるからだ。

 この公聴会が開かれて2週間も経たない4月14日、台湾立法院の外事・国防委員会で証言に立った厳明国防部長が、
 「米国が潜水艦建造でわれわれに協力する意思がある」
ことを明言した。
 これは、数日前に馬英九総統が米国のシンクタンク(戦略国際問題研究所: CSIS)にビデオを通じて話した
 「われわれ自身で潜水艦を建造する上で外国の技術支援を求めていくことが台湾ではコンセンサスになっていると思う
と述べたことにつながる話であり、シュライバー氏の話とも通じている。

 実際に台湾で、米国の技術支援を受けて潜水艦建造計画が進められることになるのかどうかは予断を許さない。
 だが、中国が経済で台湾の「抱き込み」をあきらめた場合、
 もちろん軍事的圧力で台湾を恫喝し「統一」を強要しようとする選択肢は、すぐにそうなる可能性は低いものの排除できない。
 そうした場合、台湾が頼るべきは米国の「台湾関係法」であり、国防力の強化なのであろう。

 オバマ大統領が訪日し、尖閣諸島への日米安保条約の適用明記や集団的自衛権容認への支持取り付けなど、安倍政権が期待した形で日米同盟が再確認された。
 しかし、米国の国防予算の大幅削減の中での日米同盟の強化は、日本の防衛力強化がカギとなる。

 台湾の馬英九政権にしても、
 中国との融和路線が挫折した現在、中国から今後どのような圧力を受けるか分からない中で、
 米国のコミットメントを取り付ける意味でも国防の強化が課題となる。
 米国がアジア太平洋への「リバランス」政策の中で台湾を重視している現状を考えれば当然の流れではある。
Premium Information

阿部 純一 Junichi Abe
霞山会 理事、研究主幹。1952年埼玉県生まれ。上智大学外国語学部卒、同大学院国際関係論専攻博士前期課程修了。シカゴ大学、北京大学留学を経て、2012年4月から現職。専門は中国軍事・外交、東アジア安全保障。著書に『中国軍の本当の実力』(ビジネス社)『中国と東アジアの安全保障』(明徳出版)など。



 WEDGE Infinity 2014年05月09日(Fri) 
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3824

中国に対する猜疑心:台湾の民意と疲れ果てた馬英九

 エコノミスト誌3月29日‐4月4日号が、馬英九は精力的に中国との関係改善を推し進めてきたが、
 台湾の人々は中国に猜疑心を抱いており、
 中台和解の可能性はまだ見えて来ない、
との趣旨の論説を掲載しています。

 すなわち、馬政権は一貫して中国との関係改善を追求し、中国と多くの案件について合意し、経済統合を推進してきた。
 その結果、本土からの観光客は285万人と6年間で10倍に急増し、中台間の航空便はゼロから毎日118便になり、貿易額(香港を含む)は年間1600億ドルに増加した。

 勿論、
 中国は、中台の経済的結び付きが深まれば、統一への抵抗は弱まり、台湾は平和的に中国の自治領になると思っているが、
 馬は、中台関係の改善こそが中国の侵略に対する防御の第一線になると見ている。
 なぜなら、こうした状況で中国が現状を変更しようと一方的に非平和的手段を使えば、中国も手痛い代償を払うことになるからである。

 こうした背景を考えると、今回の学生の抗議運動がなぜ馬にとって大きな問題であるかが分かる。
 議場の占拠は非民主的な手段であり、また、貿易協定に関する学生や民進党の主張の多くは浅薄だが、彼らの言動は、人々が馬や本土との経済統合に対して抱く不信感と呼応するものであった。
 また、これには、何世代も前から台湾にいた本省人と、馬のように、1940年代以降に台湾に来た外省人との間の亀裂も関係しており、抗議者たちは馬を中国の傀儡、あるいは何もわかっていない、民意に疎い人物として描いている

 世論調査では民進党がリードしており、このことに、中国ばかりか、民進党政権になって中台関係が再び悪化することを恐れる米国も危機感を抱いている。

 馬は、米国との関係は1979年以来今が最も良好だと言うが、これは疑わしい。
 米国は、アジア回帰を言いながら、台湾防衛の約束に言及することはほとんどない。
 一方、台湾では、米国の政治学者(ミアシャイマー)がNational Interest誌で、
 「台湾を捨て、中国による強制的中台統一を許す方が戦略として賢明だと米国が考える可能性は十分ある
と言っていることが注目を集めている。

 馬はこうした敗北主義にも、中国との対決を標榜する民進党の冒険主義にも組みせず、賢明な中道コースを取ってきた。
 しかし、馬は疲れ果て、人々は馬にうんざりしているように思える。
 それでも、台湾の人々の現実主義と民進党の内紛により、次の大統領も国民党から選出されるかもしれない。
 ただ、馬が、任期を終えた時に、中台関係の安定化を達成し、歴史的調停者として世界から認められることを望んでいるのなら、それは叶わぬ夢に終わりそうだ、と論じています。

* * *

 台湾での学生らによる立法院占拠事件については、発生から約1週間も、欧米の主要メディアが社説や論説を発表しないという、異常な状況でした。
 欧米が事態に困惑して、如何に論評すればよいのか戸惑っていたものと推測されます。

 このエコノミストの論説は、 馬英九に同情的な立場から、現在の台湾の政治状況を見ています。
 この論説でいう馬の中道とは、現状維持であり、両岸関係の改善は、もし中国が一方的に現状維持を変えようとするならば、高い価を払わねばならないようにさせるためだ、と論じています。

 しかし、この論理は若干強弁のように感じられます。
 学生たちが反対しているのは、サービス貿易協定成立により多量の中国人が流入し現状を変えることにあるからです。
 どこか若干無理をして馬を庇っている感が拭えないのです。

 また、米国は台湾を見捨てるという、National Interest誌掲載のミアシャイマーの論説の引用(論説の引用の仕方はミスリーディングで、ミアシャイマーは、米中の軍事能力の格差が今のペースで縮まり追いつけば、台湾を諦めざるを得なくなる、と分析しているに過ぎない)はありますが、米国における台湾擁護論の引用がありません。
 しかし、台湾に関する最も最近の議会公聴会である、2011年6月の公聴会は、
 ウォールストリート・ジャーナル紙が「台湾よ恐れるな。議会ここにあり。」
というタイトルで論じたほどであり、その後三年経っていると言っても、
 潜在的に米議会の台湾防衛の意思は存在すると考えてよいでしょう。

 いずれにしても、台湾問題は、国民党の時代が終わる可能性を前にして、やっと動き出したばかりです。平和的統合の道筋は既についているのだから台湾問題は考えなくてよい、という精神的怠惰からは、早晩脱却せざるを得ない状況になると思います。

 岡崎研究所



【輝かしい未来が描けなくなった寂しさ】



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