2014年5月8日木曜日

アジアのトラブルメーカー中国(3)::欧米の大国にはおもねりながら、近隣の小国には見下した恫喝を行う国

_


JB Press 2014.05.09(金) 
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40629

策略を巡らす中国:安定を目指し領有権も主張
(米「パシフィックフォーラム CSIS」ニュースレター、2014年33号)
By Phillip C. Saunders

 中国の地域外交は支離滅裂である。

 中国の指導者たちは「チャーム・オフェンシブ」という一種のプロパガンダ政策を再開した。
 2013年10月に習近平国家主席と李克強首相が東南アジア5カ国を訪問した。
 また、ハイレベルな「周辺外交」政策座談会に出席し、この地域の平和で安定した環境を作るために「善隣友好」関係を発展させる中国政府の意図を強調した。
 アジア歴訪中に習近平国家主席は中国と東南アジアを結ぶ「海のシルクロード」を提唱し、李克強首相はASEAN諸国との協力を強めるために7つの分野において提案を行った。

 その一方で、
 海洋上の領有権を主張する中国政府の強引なやり方は、
 アジア全体に懸念や警戒を生み出している。

 2013年11月に中国は東シナ海における防空識別圏(ADIZ)の設定を宣言した。
 それ以来中国政府は論争中の釣魚島/尖閣諸島をめぐる日本との対立をより深刻化させている。
 また、ジェームス礁(マレーシア沖から50マイル)に軍艦3隻を送ったり、セコンド・トーマス礁(仁愛礁)に座礁し遺棄されている船の乗務員への補給のためフィリピンが派遣した船舶を阻止しようとした。

 このような行動は東シナ海および南シナ海における係争中の海洋領域に対する実効支配を強化しようという中国の決意の表れであり、核心的利益には絶対に妥協しないという習近平国家主席の公約が強く表明されている。

■対立する国々の分断を図る中国

 安定の維持と海洋権益の防御という中国が目指す二元的な目標は、西洋の研究者には矛盾しているように見える。
 近隣諸国が領有権を主張している領土に対して権利を強引に求める一方で、中国はいかにして地域の安定の維持を望めるのだろうか。

 しかしながら、中国人の視点からすれば、「矛盾」とは上手く対処すべき緊張であり、相反する目標のどちらかを選ばなければならないものではない。

 中国はこの緊張を巧みに操作するために様々な方策を用いている。
 例えば、主として軍事力ではなく準軍事的な力を使用したり「サラミ戦術」(訳者注:敵を一気にではなく少しずつ追い込み滅ぼしていく戦術)を採用することにより、軍事衝突の限界点を探りながら、係争地の実効支配の強化を段階的に進めていくのである。

 一方で、対立する領有権主張国を威圧するため、増大する軍事力の優位性を示すことにますます積極的になり、また、中国が支配権を主張することに異議を唱える国に制裁を加えるために、中国の経済的影響力を利用しようとしている。

 中国政府は、領有権を主張する国と主張しない国とを慎重に見極めている(ベトナムやフィリピンのような南シナ海の領有権を積極的に主張している国と、マレーシアやブルネイのようなそうでない国とを区別している)。
 これは、中国と対立しそうな国々を分断することによって、中国の行動に対する集団的な抵抗を防ぐためである(こうしたやり方は、東南アジア諸国との対立と北東アジア諸国との対立とが同時に発生することを避けるために、中国政府が南シナ海に防空識別圏を設定する時機を窺っていることを示唆している)。

■「スカボロー礁モデル」を尖閣諸島に適用

 中国は、自国の行動は「疑う余地のない」主権に異議を唱える他国に対する防御的反応であると考え、そのように説明している。
 問題をそのように捉えることによって、国内で厳しい対応を求める動きが盛り上がる。
 そしてさらに中国政府は、中国の行動は中国の主権に対する侵害への反作用であり防衛であると主張するのだ。

 2012年以来、中国はそのような国内的盛り上がりを利用し、実効支配を強化するために他国の異議申し立てを阻止しようとしている。

 例えば、2012年4月、フィリピン海軍がスカボロー礁で漁業規定を実施するために取った行動は、中国とフィリピンがその領海にさらに艦船を派遣するという危機を招くことになった。
 米国が仲裁し両国が撤退した後でさえ、中国はフィリピンの接近を阻止する準軍事的船舶を再配備して、結局は係争地域の実質的支配権を握ってしまったのだ。
 このような結末が、今後、中国に対する異議申し立てを思いとどまらせることになる。

 その後2012年9月に日本政府が尖閣諸島の3島を個人地権者から購入した際にも、中国政府はこの「スカボロー礁モデル」を尖閣諸島に適用した。
 中国は尖閣諸島における日本の行政的管理(島への日米安保条約の適用の根拠)に対して異議申し立てを行い、日本政府にこの論争を認識させる目的で、尖閣諸島近くの水域に準軍事的船舶および軍艦を派遣した。

 アメリカの支援によって、日本は中国の圧力にもかかわらず譲歩することを拒絶した。
 それに対する中国側の反応は、安倍晋三総理の靖国神社参拝を日本軍国主義の復活の証拠だとする反日キャンペーンの強化であった。

 中国人アナリストは、2011年11月に発表されたアメリカの「アジアへのリバランス政策」を中国の主張に対する異議申し立てを促すものとしてしばしば非難する。
 だが、実際には中国の海洋論争に対するますます強引なやり方は「リバランス政策」が発表される数年前から行われている。
 アメリカが領有権争いのどちら側にもつかないので、中国政府は米国政府と直接対立することなく実効支配を今まで広げることができたのである。

■中国政府の「能力」は信頼に値しない

 中国の政策は「アメと鞭」である。

 中国の指導者は協力の基盤として、鄧小平の考えである係争地域での共同資源開発を挙げている。
 しかし、この共同開発の試み(2005年から2007年にかけてのフィリピンとベトナムとの地震探鉱、2008年の日本との天然ガス協定)はどちらも失敗に終わっている。

 中国政府の姿勢は、
★.この地域の勢力バランスは中国に有利に動いており、
★.その他の国は
 最終的には優勢な中国に譲歩しなければならない
だろう
という考えに基づいている。
 しかし、他の領有権主張国も同様に国家主義的な国民を抱え、やすやすとその主張を放棄するわけにはいかない。
 それらの国にとって、中国は重要だが、例えば米国との防衛関係の強化など他のオプションも存在するのだ。

 中国が掲げる目標との緊張関係をうまく処理するためには、機敏な外交と軍事力および準軍事力の効果的な統制を必要とする。

 一方、中国の国家主義的な政策や危機管理における様々な実績を考えると、中国政府は策略を練っていろいろな手を繰り出すものの、その能力は十分に信頼できるものではない。

 もし中国が係争地の支配を強化するために攻撃的な行動を取り続けるならば、近隣諸国との関係を一層損なうことになり、地域の安全保障環境をますます不安定にする危険性が増すことになるだろう。

(本記事は筆者個人の見解を述べたものであり、必ずしもパシフィックフォーラムCSISあるいは戦略国際問題研究所[CSIS]の見解を代表するものではありません。)

[筆者プロフィール]
Phillip C. Saunders:ソーンダース博士は、国防大学(アメリカ国防総省が設立した高等教育機関でワシントンDCにある)中国軍事情勢研究センター長在任中である。なお本論文は国防大学やアメリカ国防総省の見解を反映させたものではない。

© 2014 Pacific Forum CSIS. All rights reserved.
本記事はパシフィックフォーラム CSISとCentre for Navalist Studies(CNS)との合意に基づきCNS(北村愛子)が翻訳したものです。パシフィックフォーラム CSIS発行論文の原文はCSISのウェブサイトで読むことができます。

パシフィックフォーラム CSIS
パシフィックフォーラム CSISは、ワシントンDCを本拠にする戦略国際問題研究所(CSIS)の自律的一部門として、主にアジア太平洋地域の政治・安全保障・経済・海洋政策・環境問題などについて、アジア太平洋地域の学界・政界・財界などの指導者たちと連携しながら研究・討論活動を推進するシンクタンク。リチャード・アーミテージならびにジョセフ・ナイが理事長を努め、本部はハワイ州ホノルルにある。



JB Press 2014.05.09(金)  宮家 邦彦
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40652

南シナ海に回帰する米軍と中国の逆襲
目を覚ました巨大ないじめっ子

 22年ぶりで米軍がフィリピンに帰ってくる。
 米比両国が新たに「国防協力強化協定(Enhanced Defense Cooperation Agreement, EDCA)を締結したからだ。
 海軍はスービック湾へ、空軍はクラーク基地へ。
 いずれもルソン島中部にある南シナ海の要衝である。
 今週は中国側の反応について考えてみたい。

■オバマ大統領訪比


●フィリピン・マニラ郊外のボニファシオ基地で演説するバラク・オバマ米大統領〔AFPBB News〕

 4月28~29日、米国のバラク・オバマ大統領はフィリピンを訪問し、同国防衛に関する米国のコミットメントを再確認した。
 マニラ滞在中、ベニグノ・アキノ大統領とともに、米比国防協力強化協定が締結されたことを公式に発表している。
 ホワイトハウス発表資料によれば同協定の目的は次の通りだ。

1]、米比同盟が引き続き平和と安定を維持することに資すること
 (helping the alliance continue to promote the peace and stability)
2]、21世紀の挑戦に対処するための国防協力を強化すること
 (updating and strengthening defense cooperation to meet 21st century challenges)
3]、米軍の巡回型プレゼンス強化を促進すること
 (facilitating the enhanced rotational presence of U.S. Forces)
4]、地域における人道支援・災害救助を促進すること
 (facilitating humanitarian assistance and disaster relief in the region)
5]、米比二国間訓練の機会を改善すること
 (improving opportunities for bilateral training)
6]、フィリピン国軍の最低限の防衛能力確立を支援すること
 (supporting the Armed Forces of the Philippines to establish a minimum credible defense)

 これらの官僚用語で書かれた表現はいずれも抽象的で分かりにくい。
 これはフィリピンとその隣国にとって一体何を意味するのだろうか。
 米国の真の意図を推し量るため、例によって筆者の独断と偏見に基づく注釈をご披露することにしたい。

1]、米国の本音は、まず、米軍が南シナ海における力による現状変更を許さず、
2]、今の米比同盟の目的が中国の台頭という「21世紀の挑戦」に対処することだとし、
3]、続いて、米軍はフィリピンに常駐しないが、米国の軍用機、艦船、部隊がフィリピンの基地へのより頻繁なアクセスを獲得することにより、事実上ほぼ常時に巡回することを示唆し、
4]、米軍はいかなることが起きても南シナ海に展開することを明確にする一方、
5]、米軍は南シナ海で危機が発生しないよう必要な演習・訓練を実施しつつ、
6]、最低限の防衛力すら有していないフィリピン国軍を強化しなければならない
ということに尽きるだろう。

■敗者は中国か


●マニラ港に入った米軍のミサイル巡洋艦〔AFPBB News〕

 ここでは中国なる語は一切使われていないが、これはどう読んでも「中国が対象」としか思えない。
 前回「オバマ大統領のフィリピン訪問では中国が最大の敗者」と断じた理由もここにある。

 だが、オバマ大統領は一貫して今回の新協定が中国を念頭に置いたものではない旨強調している。
 例えば、こんな具合だ。

●]、米国の目的は中国に対処することでも、封じ込めることでもない。目的はあくまで、領土紛争を含め、国際的ルールと規範の尊重が確保されることだ。
 (Our goal is not to counter China. Our goal is not to contain China. Our goal is to make sure international rules and norms are respected, and that includes in the area of international disputes.)

]、はっきり申し上げる。米国は昔の基地を回復したり、新たな基地を建設したりするのではない。フィリピン側からの招待により、米国要員がフィリピン軍施設を通じて巡回するのだ。
 (I want to be very clear. The United States is not trying to reclaim old bases or build new bases. At the invitation of the Philippines, American service members will rotate through Filipino facilities.")

 それでは今回のEDCAはちゃんと機能するのだろうか。
 全く懸念がないわけではない。

 そもそも1992年にフィリピンから米軍を追い出したのはフィリピン人自身だ。
 米比基地協定の更新を拒否し、外国軍隊駐留に制限を加えたのは、フェルディナンド・マルコス大統領追放後に政治力を拡大したフィリピン議会上院だったのである。

 EDCA自体についてもフィリピン国内の批判は多い。
 それは同協定が秘密裏に交渉され、署名が終わって初めて公表されたものだからだ。

 フィリピン人の多くは今も対米不信を抱いており、米国は中国との関係を維持する一方、フィリピンを今も植民地のように扱うのでは、といった懸念も少なくないらしい。

■中国の逆襲


●ベトナム海上警察の巡視船〔AFPBB News〕

 かかる米国の動きに対し中国が逆襲を開始した可能性は十分ある。

 オバマ大統領がフィリピンを離れた数日後の5月2日、ベトナムと中国が領有権を争うパラセル諸島近くにエネルギー大手中国国有企業が巨大なオイル・リグ(掘削装置)を据え付けたからだ。しかも、周辺には解放軍海軍艦船が周回しているという。

 これは偶然なのか。
 現時点での判断は難しいが、中国側が大胆な動きで米国の意志をテストしている可能性も否定できない。
 また、人民解放軍空軍が近く、黄海か南シナ海上空に新たに防空識別圏を設定する可能性もあるそうだ。
 もし、南シナ海上空に設定されれば、それも中国側逆襲の一環かもしれない。

 いずれにせよ、中越両国艦船による衝突・睨み合いは現在進行形で続いている。
 また、ほぼ同時期にフィリピン当局はスプラトリー諸島付近で中国漁船一隻を拿捕し、乗組員の身柄を拘束しているそうだ。
 どちらの事件も大事に至らなければよいのだが・・・。

 筆者が心配する理由はほかでもない。
 最近の歴史を見れば、
 中国は敵対者から挑発を受けた場合、必ず報復している
からだ。

 オバマ大統領のアジア歴訪により中国に対し厳しいメッセージが送られたことは確かだろうが、それでベトナムやフィリピンが強気になっているのだとしたら、それは大きな誤りである。

 最近の環球時報社説でも、
 「中国の政策は穏健なものだが、どの国も世界に対し常に微笑んでいるわけにはいかない。
 中国は簡単に激怒すべきでないが、万一中国の国益が犯された場合、相手国は中国からの強い報復措置を覚悟すべきだ」
などという物騒な主張を繰り返している。
 これは恐らく本音だろう。

 欧米の大国にはおもねりながら、近隣の小国には見下した恫喝を行う。
 外から見える
 中国は実に卑屈な存在なのだが、不思議なことにご本人は決してそうは思っていない。

 悲しいかな、日本がこの体重300キロの巨大ないじめっ子と過去1800年以上も付き合ってきたことを、多くの欧米諸国は知らないのである。


宮家 邦彦 Kunihiko Miyake
1953年、神奈川県生まれ。東大法卒。在学中に中国語を学び、77年台湾師範大学語学留学。78年外 務省入省。日米安全保障条約課長、中東アフリカ局参事官などを経て2005年退官。在北京大使館公使時代に広報文化を約3年半担当。現在、立命館大学客員 教授、AOI外交政策研究所代表。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。






_