2014年5月20日火曜日

世界のトラブルメーカー(2):中国軍人5人を産業スパイ容疑で訴追、米国初のケース

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●19日、米司法省で配布された中国軍当局者の起訴に関する発表資料(AP=共同)


2014/05/20 01:21   【共同通信】
http://www.47news.jp/CN/201405/CN2014051901002430.html

米、中国のサイバー攻撃摘発 産業スパイで軍当局者を初起訴

 【ワシントン共同】米連邦大陪審は米企業に対するサイバー攻撃で商取引上の秘密を盗むスパイ行為をしたとして、身柄を拘束しないまま中国軍当局者5人を起訴した。ホルダー司法長官が19日発表した。5人は原子力発電や太陽光発電、金属産業に関連する情報を盗んだ疑いが持たれている。

 米企業に対するサイバー攻撃で、米政府が外国当局者を起訴するのは初めて。
 異例の対応で中国発のサイバー攻撃への強い姿勢を示した。

 中国外務省の秦剛報道局長は「米国が捏造した」と抗議し、起訴の撤回を求めた。

 起訴された中国軍当局者は、いずれも上海に拠点を置く中国軍の「61398部隊」のメンバー。



レコードチャイナ 配信日時:2014年5月20日 10時23分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=88331&type=0

中国軍人5人を産業スパイ容疑で訴追、米国初のケース
=「サイバー攻撃仕掛ける」―仏メディア


●19日、米国司法省は原子力・太陽光発電や金属分野の大手米国企業にサイバー攻撃を仕掛け情報を盗んだ疑いで中国軍人5人を起訴したと発表した。写真は米司法省。

 2014年5月19日、米国司法省は原子力・太陽光発電や金属分野の大手米国企業にサイバー攻撃をしかけ情報を盗んだ疑いで中国軍人5人を起訴したと発表した。
 米国が産業スパイ容疑で中国軍人を起訴したのは初めて。
 仏国際ラジオ放送ラジオ・フランス・アンテルナショナル(RFI)中国語サイトが伝えた。

 米司法省によると、中国軍人らは米国企業のライバル関係にある中国企業にとって有利な情報を収集していた。
 この中国企業には国営企業も含まれている。
 軍人らは鉄鋼大手USスチール、アルミ大手アルコアなど米企業5社と労働組合1団体を標的にサイバー攻撃を行った。

 ホルダー米司法長官は
 「米国企業を破壊する外国政府を許すわけにはいかない」
と表明。
 米国防省は13年6月にあった米国へのハッカー攻撃も中国軍が関係しているとみている。
 米国はこれまでに何度か中国政府に対し産業スパイについて話し合いの場を求めたが、中国側が応じてこなかった。
 米国は
 「中国について言えば、国家スパイと産業スパイの間には違いが見当たらない
としている。



サーチナニュース 2014-05-20 10:09
http://news.searchina.net/id/1532766

中国猛反発「でっちあげだ!」
・・・米当局が解放軍「サイバー攻撃部隊」5人をスパイ容疑で刑事訴追

 中国政府・外交部の秦剛報道官は20日、米国・司法省が中国軍官5人を、サイバー攻撃により米国の原発関連企業などから情報を盗んだとして刑事訴追したことに対し、
 「まったくのでっちあげで、下心があるものだ」
などと猛反発した。

  刑事訴追された5人は、中国人民解放軍でサイバー攻撃を実施する「61398部隊」の所属で、2006年から14年にかけ、原発大手ウェスチングハウスや米鉄鋼大手USスチールなど6社のコンピューターに侵入するなどで、原発や製品に関する企業秘密などを盗む産業スパイ行為を行ったとされる。

 ホルダー長官によると、同種の刑事訴追は初めてのケースだ。
 ただし5人が米国内にいるわけではなく、「実際に法廷に立たせる可能性」について、長官は言明を避けた。
  中国政府・外交部は20日付で、秦剛報道官による同件についての談話を発表。公式サイトにも
 「中国側は米国が中国側人員を“起訴”したことに対し、強力に反撃」
との見出しで掲載した。
  秦剛報道官は
●.「国際関係の基本準則を踏みにじるものであり、米中協力の相互信頼を損ねるもの」、
●.「まったくのでっちあげで、下心があるものだ」
と主張し、
●.「中国側はただちに米国に抗議し、米国が過ちを即刻ただし、いわゆる提訴を取り下げるよう促した」
と述べた。
  自国側については
●.「中国はインターネットの安全の堅固なる維持者だ。
 中国政府と軍および関連する人員が、インターネットを通じて商業上の秘密を盗む活動をしたことは、これまで1度もない。
 米国側の中国側人員に対する非難は、まったくのでっちあげで、下心があるものだ」
と論じ、米国側を非難した。
  秦剛報道官は、インターネットにより違法な情報収集をしているのは米国側と非難。
●.「米国政府と関連部門は国際法と国際関係の基本準則に違反し、外国の政治家、企業、個人を対象に、大規模かつ組織的に秘密を盗み、盗聴や監視活動を行っている」
として、中国は米国のスパイ活動による「深刻な被害者だ」と主張した。


 ものの一時、「日本悪玉説」が賑わったことがある。
 しかし、いまは影もない。
 代わりに登場してきたのが「中国悪者化現象」。
 これなどはその典型。
 この「中国悪者化現象」はあらゆるところに出始めている。
 これ、おそらく止むことはないのではないだろうか。
 中国は日本悪玉説を一生懸命に宣伝しているが、残念なことにあまり効果があがらない。
 韓国がもう少し頑張れれば少しは流れができたかもしれない。
 だが韓国は旅客船沈没事故以降、自ら「三流国・三流民族」と卑下するに至ってはどうしようもない。
 もはやこの国は死に体である。
 中国は唯一の支持国を失ってしまった。
 そこでいま最も期待をかけているのがロシア。
 でもこの国、熱情というものがない。
 あらゆる損得を計算した究極の冷徹な合理主義国家。
 ために非情なこともいともあっさりやり遂げる意志をもつ。
 
 日本悪玉説の火が消えると同時に
 中国悪者化現象が吹き出したということは、誰もが中国の明日に不安を感じ始めた
ということなのだろう。
 数字的には明るい未来を写しだしているが、
 「果たしてそうだろうか」
と疑問視しはじめたということになる。
 統計数字による推論か、肌で感じる危惧感か、ということになる。
 「2015年バブル崩壊説」というのは以前から言われていたことだが、皆がこのことに疑心暗鬼になっている。
 ということは、そういう可能性もありうるような状態に中国の在り方が見えている、ということにある。
 もしかしたら、中国はヤバイかも、そう皆が、あるいはそう考える人が多くなりつつある
ということでもある。
 これまで、様々な苦境を中国は乗り越えてきた。
 だからといって次の苦境を越えられる保障はどこにもない。
 そしてもし次の苦境を乗り越えられても、その次にくる苦境を乗り越えられるとはかぎらない。
 つまり、
 中国は今後、いつ崩れてもおかしくないような足元で踏ん張っている国
と認識されているということになる。
 
 このニュースは「中国悪者化現象」をさらに加速させる。
 つまり、
 中国がどういおうと中国ならやりかねない、
 やらないならかくも早い技術の習得が可能なわけがない、
ということになる。
 中国の「パクリ」の精髄は、国家レベルによる知識の盗掘にある
ということに周りが納得しているということである。
 もうこの世には中国を「善玉とみる風潮はない」
と言えるほどになっているということである。


毎日新聞 2014年05月20日 15時02分
http://mainichi.jp/select/news/20140520k0000e030192000c.html

中国:米中サイバー安保部会を中止 米の軍当局訴追に対抗

 【北京・井出晋平、ワシントン平地修】サイバー攻撃で米国企業から情報を盗んだとして、米司法省が中国の軍当局者5人を刑事訴追したと発表したことについて、中国外務省の秦剛報道局長は19日夜、対抗措置として、米中で設置したサイバー安全保障問題に関する作業部会の中止を決めたと明らかにした。

 一方、ホルダー米司法長官は同日の記者会見で
 「いかなる国による米企業への破壊活動も許すことはできない」
と表明。
 サイバー問題を巡る米中間の対立が激しくなりそうだ。

 米中は昨年7月、サイバー安全保障問題について実務者同士で協議する作業部会を設置。
 サイバー分野でのルール作りなどを進めることで合意した。

 だが、秦局長は
 「(訴追は)中米協力と相互信頼を損なう」
と非難。
 「中国こそ米国のサイバー攻撃の被害者」
と反論し、
 「事態の推移によってはさらなる措置を行う」
と警告した。

 これに対し、カーニー米大統領報道官は19日の会見で
 「オバマ政権にとってサイバー問題は最優先の課題で、中国政府には懸念を表明してきた」
と強調。「この行為(サイバー攻撃)が続かないよう中国政府と協力する用意がある」
と解決を呼びかけた。



2014.05.21(水)  Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40738

米国が中国軍人5人を「サイバー窃盗」で起訴
エスカレートするオバマ政権のキャンペーン
中国政府からの報復の恐れも
(2014年5月20日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 今から1年足らず前、バラク・オバマ米大統領が習近平・中国国家主席を迎え、カリフォルニアで8時間の首脳会談を主催した後、ある米国政府高官は、サイバー窃盗に対する米国の懸念が今、両国の「関係の中心課題」になったと発表した。

 それから数時間内に、エドワード・スノーデン氏が香港のホテルの部屋から、自分が米国家安全保障局(NSA)に関する一連のリークをしたことを明らかにし、その過程でハッキングに関して中国に圧力をかけようとするオバマ政権の取り組みを劇的に損ねた。

 米政権は19日、米国企業から企業機密を盗んだ容疑で中国軍のメンバー5人の起訴を発表し、主導権を取り戻そうとした。
 ペンシルベニア州西部地区のデービッド・ヒクトン検事正は「これは21世紀の強盗だ」と述べた。

■企業機密を盗み、自国の国営企業に流す組織的取り組み


●起訴された中国軍関係者の顔写真を掲載したFBIの指名手配犯のページ

 今回の起訴――米連邦捜査局(FBI)の最重要指名手配犯のページにも中国軍関係者の写真が掲載された――は、
 中国政府が「商業的に重要な情報を盗むための組織的作業」(米政権)をすることを阻止する米国の作戦の劇的なエスカレートを意味している。

 「本政権は、米国企業を違法にサボタージュし、自由市場の運営において公正な競争の完全性を損ねようとする国の行動を許容しない」。
 エリック・ホルダー米司法長官は19日、こう述べた。

 だが、中国人ハッカーの名前を公表して恥をかかせようとするうえで、オバマ政権が直面する難しい問題は、
 NSAの活動に関するスノーデン氏の情報漏洩が中国側に、米国に対して報復する武器を与えてしまうかどうか、だ。

 「これは民間企業から盗むことをやめるよう中国に一段と圧力をかける方法のように見える」。
 ファイア・アイのチーフ・セキュリティー・ストラテジストのリチャード・ベイトリック氏はこう話す。
 「だが、中国から報復を受けるリスクがある

 オバマ政権はこうした起訴状を出すことで、過去数年訴え続けてきた主張を強調している。

 すべての国が諜報を行っていることは、米国政府高官も認めている。
 だが、米政府高官らは、中国は米国側が「サイバーが可能にする経済的窃盗」と呼ぶもの――諜報機関や軍の当局者が企業秘密や商業的に慎重な扱いが必要な情報をハッキングし、それを自国の国有企業に流す行為――を行っている最も突出した国だと主張している。

 「我々は米国企業に競争上の優位性をもたらすために情報を収集したりしない」とホルダー長官は述べた。

■昨年の報告書で明らかになった「61398部隊」に所属


●旧マンディアントが昨年の報告書で、中国軍のハッカー組織「61398部隊」の拠点として突き止めた上海市内のオフィスビル〔AFPBB News〕

 米国による起訴は、「61398部隊」として知られる中国軍のグループを対象としている。
 上海中心部にあるオフィスビルを拠点に活動しており、昨年、今ではファイア・アイに買収された情報セキュリティー企業マンディアントが公表したリポートによってその存在が明らかにされた部隊だ。

 起訴状によると、中国軍当局者の1人は2010年、米ウエスチングハウス(WH)がちょうど中国の国営企業と発電所の建設契約の条件について交渉している時に、WHの発電所に関する情報を盗んだという。

 また、別の事件では、米国政府が米国市場での低価格ソーラー製品のダンピングについて中国側を批判している時に、中国軍当局者らがソーラーワールドからキャッシュフローや価格設定、商業訴訟に関する情報を盗んだと米国側は主張している。

 マンディアントのリポートによれば、19日に起訴された中国軍関係者の1人、王東(ワン・ドン)氏はオンライン上で「Ugly Gorilla(醜いゴリラ)」という仮名を使っていたという。

 中国政府は即座に起訴内容を否定し、起訴状を「捏造」と評した。
 中国外務省は「中国の政府、軍、関連職員は1度として企業秘密のオンライン窃盗に関与したことはない」と述べた。

 中国軍関係者が実際に米国に渡り、起訴内容を争う可能性はまずなさそうだが、
 オバマ政権としては、自分たちが示している証拠が中国に対する何らかの抑止力になることを期待している。
 米国の政府関係者らは19日、今後さらに起訴状を発行すると断言した。

 しかし、米国にとって1つの危険は、ロシアに亡命しているスノーデン氏がリークした資料が中国側に、中国政府が性質が似ていると主張できる活動について米国に対抗策を講じるチャンスを与えることだ。

■スノーデン氏の情報が中国側に「武器」を与える恐れ


●米中央情報局(CIA)元職員のエドワード・スノーデン氏がリークした情報が、中国側に武器を与える可能性がある〔AFPBB News〕

 スノーデン氏が公表したある資料――最初にニューヨーク・タイムズとデア・シュピーゲルによって公表されたもの――によると、NSAは中国の通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ) 製のネットワーク機器や部品に「裏口」を設置し、経営幹部同士の通信を手に入れられるようにしたという。

 別の資料は、米国が米国企業が製造したルーターその他の機器に似たようなバグを仕込んでいることを示唆している。

 起訴状は中国が商業訴訟で優位に立てるようハッキングを利用していると批判しているが、スノーデン氏がリークした資料は、米国が貿易交渉で強い立場に立てるようにするために諜報活動を利用したことを示している。

By Geoff Dyer
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ウォールストリートジャーナル 2014 年 5 月 20 日 17:56 JST
http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052702303923004579573400987783582?mod=WSJJP_hpp_RIGHTTopStoriesThird

【社説】中国軍ハッカー訴追、問われるオバマ政権の本気度

 米司法省が中国軍当局者5人を米国にサイバー攻撃を仕掛けていたとして訴追したことは、スパイ活動の脅威について米国民の意識を高める方法として有益だ。
 問題は、実際よりも強硬な政策をとっているかのように見せかけるための、オバマ政権が得意とする外交政策のジェスチャーのひとつにすぎないのかどうかという点だ。

 米国政府や民間企業をターゲットとした中国の幅広いサイバー攻撃は政府内ではよく知られている。
 つまり、今回の訴追がもつ意味は、国民に具体例を示したことにある。
 訴追を受けたのは、上海に拠点を置く中国人民解放軍の「61398部隊」に所属する5人で、
 鉄鋼や太陽光発電、原子力関連の米企業5社と1つの労働組合のシステムに侵入した容疑がかかっている。
 コンピューターや価格、テクノロジーに関する情報を狙ったとみられている。

 米国の企業や労働組合は、中国の人民解放軍から盗み見されていたことを以前から知っていたに違いない。
 だが一般的な米国民の多くは、民間産業に対するサイバー攻撃がもたらす影響の重大さをまだ理解していない。
 そういう意味では、この訴追は教訓的な意味を持つ。
 ある情報機関の関係者が指摘したように、
 今日の米企業には2種類のタイプしかない。
①.1つはコンピューターシステムに侵入された企業。
②.もう1つは、侵入されたことに気付いていない企業だ。

 だが、中国によるサイバー戦争に対する防衛手段として、この訴追自体がなし得るものはほとんどない。
 コンピューターの不正操作や悪用を謀略した容疑で訴追された5人が米国の裁判所に姿を見せる可能性は全くない。
 収監に至ってはそれ以上にあり得ない。
 中国外務省はただちに訴追を非難し、中国こそがサイバー戦争の真の被害者だと主張した。
 容疑者らが米国本土で処刑されることが今世紀中にあると期待してはいけない。

 また、米司法省がどこまで本気で今回の問題に取り組むかについても明確ではない。
 ホルダー米司法長官が訴追を発表したが、これも外国とのサイバー戦争に対するより厳しい新たな政策であるという合図以上に政治的メッセージを誇張させることになりかねない。   

 オバマ政権は以前、大々的に外国のスパイ行為を訴追してきた。最も記憶に残っているのは2011年にイラン革命防衛隊の工作員がサウジアラビア駐米大使をワシントンのレストランで殺害しようと計画したとして訴追された1件だ。
 首謀者は有罪判決を受けたが、オバマ大統領が核開発問題をめぐりイランとの間で合意とデタント(緊張緩和)を図ったため、この暗殺未遂事件の重みは次第に薄れていくことになった。

 19日の訴追の大きな弱みは、このサイバー攻撃が国家が関与した本当の侵略行為であるにもかかわらず、
 これを通常の犯罪のように扱っていることだ。
 これはやんちゃなハッカー集団の話ではない。
 訴追された5人は、米国の秘密を標的にする正式なサイバー部隊を擁する中国軍の関係者だ。
 この5人は人民解放軍の戦闘機パイロットと同じ、中国という国家の代理人なのだ。

 サイバー戦争に対処する適切な方法は、中国に政治的・経済的代償を払わせるために外交術を駆使することだ。
 王東容疑者とその仲間に対する訴追はそうした代償とは言えない。
 米国は独自のサイバー戦術をもって中国の標的を攻撃し、中国には米国のハッキングにすべてのリソースをつぎ込むのではなく、防衛に費やさざるを得ないようにするべきだ。

 米国は中国の企業に制裁を加えることもできる。
 例えば、米下院情報委員会が中国軍との関係を特定した華為技術(ファーウェイ)のような企業だ。
 米中両国間の軍事的連携を制限することも可能なほか、中国の政府高官の子供には米国の大学に入るための学生ビザ(査証)を発給しないこともできる。
 こうした措置は中国の米国に対するサイバー攻撃への直接的な対処であることを明白に示すべきだ。

 それでも中国はサイバー攻撃によって得られる潜在的な恩恵と代償を天秤にかけながら、攻撃を続けるかもしれない。
 確かなことは、人民解放軍の下級のハッカー5人を訴追したところで、何の抑止力にもならないということだ。



JB Press  2014.05.23(金)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40770

お尋ね者にされた人民解放軍サイバー戦部隊
オバマ政権の対中政策パターン

  「おいおい、ピンクレディかよ」、と思わず突っ込みたくなる事件が起きた。

 中国人民解放軍サイバー戦部隊の将校5人が米国で起訴された。
 しかも、FBIが最も危険視するサイバー犯10人の「ウォンテッド(Wanted、お尋ね者、指名手配)」中で上位を独占している。

 果たしてこれは「ルビコン」なのか、それとも米国の対中政策は変わらないのか。
 今回も筆者の独断と偏見にお付合い願いたい。

■事件の概要


●米国へのサイバー攻撃を監視する米国家安全保障局(NSA)本部〔AFPBB News〕

 今回の事件はかなり大きく報じられた。

 JBpressでも既に良質の記事がいくつか掲載されており(『米国が中国軍人5人を「サイバー窃盗」で起訴』『人民解放軍将校5人を起訴、ついに「ルビコン」を渡った米国政府』)、いまさら筆者が事件の背景を詳しく書く必要もないほどだ。

 ここでは各種報道を踏まえ、事実関係についてのみ、ごく簡単にまとめておきたい。

●.5月19日、ペンシルバニア州西部の米連邦大陪審は、サイバー攻撃で米企業にスパイ行為を行ったとして、中国人民解放軍のサイバー戦部隊61398部隊(『尖閣よりホットな米中サイバー紛争』)」の将校5人を起訴した。

●.起訴状では、被疑者5人が2006~2014年に原発大手ウェスティングハウス、鉄鋼大手USスチール、アルミ大手アルコアなど5社と労働組合にサイバー攻撃を行い、商業上の機密情報を盗み取ったとされた。
 (ちなみに、米国司法省のHPのヘッドラインには「U.S. Charges Five Chinese Military Hackers for Cyber Espionage Against U.S. Corporations and a Labor Organization for Commercial Advantage」とある)

●.これに対し、中国外交部報道官は、起訴内容は「米国の捏造」だとして「起訴撤回」を求めるとともに、米中間で設置されたばかりの「サイバーセキュリティー作業部会」の活動中止を表明した。

 起訴状などで示されたサイバー攻撃の手口、対象などはどれも既知のもので新味はない。

 これまでと異なる点は、
 中国側のメンツを尊重し水面下で働きかけてきた米国政府が、
 今回は「正式起訴」しかも「サイバー最重要犯」の「公開指名手配」という、後戻りのできない措置に踏み切った
ことだろう。

■2年間の周到な準備

 起訴状によれば容疑者は次の5人。
 起訴する以上は、当然人定確認もそれなりにやっているはずだ。

 以下を見れば、いつもは荒っぽい米国司法当局の仕事が今回は意外に丁寧であることが分かるだろう。
 中国側はこれを「捏造」だと否定するが反論はしていない。
 中国の主張にはやはり無理があるようだ。

◎米国で起訴された中国人民解放軍の将校5人の写真〔AFPBB News〕

●王東(Wang Dong、ハンドルネームUglyGorillaまたはJack Wang、対象コンピューターの違法操作)

●黃振宇(Huang Zhenyu、ハンドルネームhzy_lhx、他人のドメインアカウントを違法管理)

●孫凱亮(Sun Kailiang、ハンドルネームJack Sun、マルウエア付電子メールの送付)

●顧春暉(Gu Chunhui、ハンドルネームKandyGoo、他人のドメインアカウントを使った情報盗取など)

●文欣宇(Wen Xinyu、ハンドルネームWinXYHappyまたはWin_XY、対象コンピューターの違法操作)

 それにしてもよく調べたものだ。
 米側はこの調査に最低2年かけたという。
 仮に捜査開始が2012年6月だとすれば、それは中国通信機器大手「華為技術」と「ZTE」の不正情報収集が米議会で厳しく批判された時期と符合する(『中国通信機器大手の憂鬱』)。

 さらに、その1年後の昨年6月にはカリフォルニア州で米中首脳会談が開かれた。

 この首脳会談の最大の論点がサイバー攻撃だった。
 米側が中国側に対し、「この問題の解決が実際に米中経済関係の将来の鍵を握っている」ことを強調し、オバマ大統領が習近平・国家主席にこの問題を「引き続き真剣に考える」よう要請したことは既に書いたとおりだ(『オバマと習近平はどこまで親しくなったのか』)。

 当時ホワイトハウスは、
 「もしこの問題が処理されず、米国の知的財産に対する直接盗取が続けば、この問題は米中経済関係にとって非常に困難な問題となり、2国間経済関係の潜在的可能性を阻害する」
とまで述べている。

 あれから1年、予告通り、遂にこの「阻害」が始まったということなのか。

■米側のロジックと中国側の反論

 今回中国軍人を正式起訴したのだから、米側は意図的に北京のメンツを潰したことになる。
 中国側が怒り狂うことも当然織り込み済だろう。
 米国から見れば、1年前オバマ大統領が直接習近平主席に善処を要請したにもかかわらず、中国側がこれを意図的に拒否したのだから、起訴も当然の結果ということだ。

 これに対する中国国防部報道官の5月20日の発言が面白い。
 ざっとこんな具合である。

●.米国による中国軍当局者5人の訴追は米中間の軍事関係を損なう可能性がある
●.起訴は隠された動機のもとに行われたものであり、両国間の信頼に深刻なダメージを与える
●.インターネットの安全性に対する米国の偽善さとダブルスタンダードが明らかになって久しい
●..米国こそ世界最大のインターネットパスワード盗用者であり、対中サイバー攻撃の筆頭国だ

さらに、興味深いことに、中国の中央政府調達局は政府が調達するパソコンに「Windows 8」を搭載してはならないと発表したらしい。

 中国政府PCの7割は「Windows XP」搭載であり、マイクロソフトがサポートを打ち切ったため安全上の懸念が生じたからだそうだ。
 それって、ちょっと無関係のような気もするのだが・・・。

 この米中論争、一見水かけ論にも聞こえるが、米側の主張をよく読んでほしい。
 米側も中国が「サイバー攻撃を行うこと」自体を違法だとまでは決めつけていない。

 例えば、ホルダー司法長官は
 「オバマ政権は米国企業を違法に害し自由市場経済の競争を阻害するいかなる国家の活動も容赦しない
 (This Administration will not tolerate actions by any nation that seeks to illegally sabotage American companies and undermine the integrity of fair competition in the operation of the free market.)」
と述べている。

 「サイバー攻撃なら米国もやっている」、
 「盗人猛々しい」と思われるかもしれない。
 しかし、今回米国は人民解放軍が「国家安全保障上の観点」からスパイ行為を行ったから中国を非難しているわけではない。

 米側が問題にしているのは、
 中国が「商業上の観点」から米国の民間企業に対してスパイ行為を行ったこと
なのだ。

 中国のサイバー部隊は得られた情報を、中国の国家安全保障だけでなく、商業上の観点から米国民間企業の競争相手である中国国有企業などにも提供している。
 要するに、中国側が市場における競争を歪めていたからこそ米側は問題にしているのだ。

 しかし、そんな論理で中国が納得するはずはない。
 彼らは米国情報機関の倫理観など一切信じていない。
 米国の情報機関だって中国企業の秘密情報を米国民間企業に渡していると思うはずだ。

 そもそも、解放軍が得た情報を中国の国有企業に渡して何が悪いのか。
 森羅万象が政治的意味を持つ中国では国家安全保障と商業上の競争に区別がないのだから・・・。

■オバマ対中政策のパターン

 5月20日、米国務省のラッセル国務次官補が下院外交委員会アジア太平洋小委員会で証言した。
 南シナ海で中国とベトナム・フィリピンが対立を深めている現状と中国による石油掘削作業についてはこう述べている。

 「中国の一方的で自己主張の強い行為に対する国際社会の批判は必ずや北京における計算や政策決定者の考えに重要な影響を及ぼすだろう
 (The criticism that emerges in the international community to respond to a unilateral and assertive behaviour has, without doubt, an important effect on the calculations and decision makers in Beijing. )」

 実はこのラッセル次官補、筆者にとっては35年来の友人だ。
 かわいそうにワシントンでは毀誉褒貶相半ばとの陰口も聞かれる。

 だが今回の同次官補の中国に厳しい議会証言を聞いていると、これまでオバマ政権の対アジア政策が右往左往したのは必ずしも彼のせいではなさそうだ、という気がしてきた。

 確かにオバマ政権対中政策の振れは小さくないが、実際にブレているのはトップ自身だ。

 過去数年間でも、習近平主席に秋波を送ったかと思えば、
 尖閣諸島への日米安保条約上義務を確認したり、
 フィリピンに米軍のプレゼンスを復活させたりする。
 初めは下手に出るが、誠意が伝わらないと見れば、掌を返すように頑なとなる。

 これはオバマ政権のパターンかもしれない、と思うようになった。

 そう言えば、2009年大統領就任当初にも中国に対する異様な配慮が感じられた。
 だが、同年秋のオバマ大統領訪中が失敗に終わり、さらに12月のCOP15(第15回気候変動枠組条約締約国会議)で米中関係が険悪化してからは、長く対中強硬政策が続いた。

 もしこのパターンが繰り返されるとしたら、今後米中関係が長い冬に突入する可能性も否定できない。
 しかし、オバマ政権はそれほど一貫性のあるチームだっただろうか。
 同政権の対欧州、中東、アフリカ政策を知れば知るほど、答えは否。

 どうやら今後もオバマ政権には振り回されそうだ。
 それでもあと2年半、この政権と付き合っていかなければならない。これが米国の同盟国の宿命である。
Premium Information

宮家 邦彦 Kunihiko Miyake
1953年、神奈川県生まれ。東大法卒。在学中に中国語を学び、77年台湾師範大学語学留学。78年外務省入省。日米安全保障条約課長、中東アフリカ局参事官などを経て2005年退官。在北京大使館公使時代に広報文化を約3年半担当。現在、立命館大学客員教授、AOI外交政策研究所代表。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。





【輝かしい未来が描けなくなった寂しさ】


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