2014年5月21日水曜日

アジアのトラブルメーカー中国(30):ベトナムは窮鼠になるか?3方面から圧力をかける中国

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JB Press 2014.05.21(水)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40734

ベトナムに3方面から圧力をかける中国 
緊迫する南シナ海情勢と国内で鬱積する不満に難しい舵取りを迫られるベトナム政府

 南シナ海の西沙諸島の周辺海域に中国海洋石油が石油掘削基地を設置する動きを始めたことで、中越間の関係が緊迫化している(「中国とベトナムに大規模な軍事衝突はあるのか?」参照)。

 ベトナム国内では、各地で反中国の大規模なデモが発生した。
 報道を見る限り(19日時点)、最も過激だったのが、台湾プラスティックグループの建設現場がある北中部ハティン省のようだ。

 14日朝に始まったデモは、夕方にはベトナム人約5000人の規模にまで拡大し、約1000人の中国人と対峙。
 深夜には終息したが、この日の暴動で4人の死者が出たとされる。
 また、南部では、13~15日にかけてビンズオン省を中心に反中デモが激化。
 日系も含めて近隣の工場は操業停止に追い込まれた。南部全体での逮捕者は約1000人にも上った。


●ベトナム・ハノイの中国大使館近くの通りで、反中デモの参加者(中央)に退去するよう求める女性警察官。©AFP/HOANG DINH Nam〔AFPBB News〕

 一連の動きに対して中国政府は、ベトナム国内の中国企業で働いている中国人ら約3000人を帰国させたと発表。

 中国人4人が死亡したとされるハティン省にはチャーター機を派遣し、負傷した中国人らを本国に送還した。
 また、ベトナム在住の中国人を帰国させるため、さらに艦船5隻を現地に派遣することを決めたと報道されている。

 こうしたデモは一部地域で限定的に発生したものであり、かつ現在は沈静化している。
 ベトナム政府の取り締まりも厳格で、ベトナム全土に反中国の炎が広がっているような状況では決してない。

 国内はいつもの通り南国的な平和な日常に戻りつつある。
 このまま沈静化することを願いたい。

■中国による西沙諸島実効支配の歴史

 反中デモは盛んに報道されているが、そもそも西沙諸島をめぐる中越の歴史的な紛争の経緯があまり伝えられていないようなので、事実関係を簡潔に整理しておく。

 今回問題となっている西沙諸島は、フランスの植民地時代から開発された地域だ。フランスの撤退後、南ベトナムが西半分を、中国が東半分を各々実効支配した。
 その後、ベトナム戦争終了直前の1974年、弱体化した南ベトナムが実効支配していた西半分を中国軍がどさくさに紛れて攻撃して、西沙諸島全域を支配下に収めた。

 その後も、中国は実効支配の手段を段階的に拡大させてきた。
 1991年には諸島内に軍用滑走路を建設。
 2012年には、三沙市という西沙・中沙・南沙諸島の3つの諸島をまとめて統治する市を新設した。

 ベトナムの主張からすれば、明らかに中国によるベトナム領土の強奪。
 しかし、中国からすれば、1974年から40年にわたって実効支配している自国の固有の領土ということになる。

 どちらに帰属するかという話は置いておくとしても、中国のこうした西沙諸島の実効支配の経緯は、同じく中国と領土紛争を抱える日本にとって、対中戦略を検討する上で、参考になると思われる。

■反中デモに内包される若者の政府への不満


●訪米中の中国人民解放軍の房峰輝総参謀長は15日、ベトナムと領有権をめぐり対立している南シナ海での石油掘削の継続を明言した〔AFPBB News〕

 ベトナムで反中デモは特に珍しいことではない。
 ただし、今回のようにデモ隊が暴徒化して、器物損壊や死傷者が出るということは極めて例外的だ。

 ベトナムの歴史は、一言で言えば中国との戦いの歴史であり、確かに、中国に対する鬱積したベトナム国民の不満が爆発しているという事実はある。

 ただし、看過できないのは、ベトナム国内での経済的な格差拡大による不満の高まりだ。
 今回の暴動の参加者は圧倒的に若者が多かったと、実際にデモを目撃した韓国人の友人が語っている。

 ベトナムは平均年齢が20代後半で、若者が多い。
 しかし、実は若者の失業者というのも、統計に表れていないだけで、かなり多い。

 弊社(DIベトナム)は、RMITというホーチミンの優秀な私立大学から毎年新卒を採用している。
 同大学の卒業生の話を聞くと、卒業時点できちんとした職に就いている人の比率は約5割、2割が無給のインターンで、3割は就職活動中という。

 私立の一流大学で、この比率である。
 よりレベルの劣る大学の状況たるや推して知るべし。
 ある意味、日本よりも状況はひどい(日本は最近は就職率は好調らしいが)。

 ここ数年、ベトナム経済は停滞している。
 賃金は上昇しても、労働生産性が上昇していない。
 いわゆる、典型的な中所得国の罠に陥りつつある状況だ。
 停滞する経済が、巨大な労働適齢期の人口を吸収し切れていない。

 政府統計による失業率は低いが、これは、定職に就かない若者がバイクタクシー運転手や農業手伝い(と言っても、どちらもブラブラしているだけだが)として就業者に無理矢理カウントされているだけである。

 一方で、外資系の会社に就職した若者は、弊社でもそうだが、就職して数年後にはベトナムの平均給与の数倍の給料を稼ぐようになる。
 こうした社会の不平等の歪が、今回の反中デモを通じて顕在化している。

 ベトナム共産党がデモの取り締まりを強化したのは、反中国デモが、反政府デモに転じる可能性を危惧したという側面も大きいはずだ。

■中国の対ベトナム「3面方向戦略」

 デモの考察はここまでとして、対中関係をもう少し分析したい。

 ベトナム研究の第一人者である早稲田大学政治経済学部の坪井善明教授によると、ベトナムの政府要人は、中国が3面方向からベトナムに圧力をかけてきていると認識しているという(以下の太字は、坪井先生の分析を引用させていただく)。

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1つ目は、今回の南シナ海。

2つ目は、中越国境地域。
 ベトナムは中国の雲南省・広西省・チアン自治区とラオカイ省・ランソン省・クアンニン省の3つの省で国境を接している。
 陸路なので主要な3つの国際道路、それ以外に26の道路で国境通過ができるようになっている。

 麻薬や武器の密輸、人身売買用にベトナム女性の誘拐等、入国管理を巡る問題だけでなく、山奥では国境ラインがいつの間にかベトナム側に入り込む形で数十メートル内側に新しく引かれたりするケースも起こっている。

3つ目は、カンボジアからの圧力である。
 カンボジアに巨額な政府開発援助資金や紡績業への直接投資等を集中させている。
 こうして政財界に中国の影響力を増大させ、ベトナムの影響力を削ぐ政策をここ20年間くらい継続して取ってきている。

 その結果、2012年のカンボジアがASEAN議長国であった時のASEAN首脳会議では、ASEANが一致団結して中国に対して南シナ海での国際法を無視するような進出を非難する決議案は議長国のイニシアティブで拒否されるという結果を生じさせた。

 これほどまで、カンボジアは中国寄りになっている。
 カンボジアの態度の変化を悪しざまに言うベトナム人の悪口では、
 「カンボジアは中国にカネで買われた」
ということになる。
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 筆者も中国のカンボジアへの積極的肩入れには、強く思い当たる節がある。
 これまで前職の国際協力銀行時代以来、何十という途上国の政府を訪問してきたが、カンボジアの役所の建物が群を抜いて、分不相応に立派だった。

 その建物の中で働く友人のカンボジア政府高官から聞いた話では、建物の建設費は約50億円だが、それを中国政府がただで造ってくれたという。

 おしとやかな日本外交にはできない、したたかな中国外交である。

■ベトナムは3方面からの圧力にどう対応するのか?

 前回も書いたとおり、ベトナムは中国に真正面から戦いを挑んだら負けるということを、共産党幹部から民草に至るまで、卑屈なまでに自覚している。
 繰り返しになるが、全面的な軍事衝突はベトナム政府のオプションにはないだろう。

 一方で、今回は国家の主権にかかわる問題だけに、国内の政治的安定という意味で、ベトナム共産党も中国への容易な妥協は世論が許さない。

 短期的には、ベトナム共産党はASEANや日米の支援を訴えつつ、中国側に石油掘削基地を撤去させ、西沙諸島は2国間で係争中であるという事実を認めさせるという方針を取る可能性が高い(中国は、日本の尖閣諸島に対する見解と同様に、西沙諸島に領土問題はないという立場を取っている)。

 一方、今回の事件は、より中長期の大きな政治力学の中でとらえれば、
 ベトナム共産党が中国との関係を断ち、米国との結びつきを強化する歴史的な転換点になる可能性が高いと、
政府高官に近い立場の複数のベトナム人の友人が語っている。
 これについては、次稿でもう少し詳しく述べたい。
Premium Information


細野恭平 Kyohei Hosono (株)ドリームインキュベータ(DI)執行役員、DIベトナム社長
東京大学文学部卒業(スラブ語)、ミシガン大学公共政策大学院修士。1996年、海外経済協力基金(後に国際協力銀行)に入社。
旧ソ連(ウズベキスタン、カザフスタン等)向けの円借款事業や、途上国の債務リストラクチャリング、ODA改革等に従事する。途中、ロシア・サンクトペテルブルクにてロシア語を習得。2005年、DIに参画し、大企業向けのコンサルティングやベンチャー企業向けの投資に従事。
2010年から、ベトナムに駐在。DIアジア産業ファンド(50億円)を通じたベトナム企業向けの投資、ベトナムに進出する日本企業・ベトナム政府/企業向けのコンサルティングなどを手掛ける。400社以上のベトナム現地企業と接点があり、ベトナムの幅広いセクターに精通している。


 下は中国の「対ベトナム、ムチ作戦」の一つ。


レコードチャイナ 配信日時:2014年5月21日 13時41分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=88389&type=0

暴力的反中デモ、ベトナムは中国企業、個人の被害をすべて賠償せよ―中国商務部


●20日、国際在線は記事「中国商務部:ベトナムは中国企業、個人にすべての損失を賠償しなければならない」を掲載した。写真はデモで放火された台湾企業・台塑河静鋼厰の工場建設地。
2014年5月20日、国際在線は記事「中国商務部:ベトナムは中国企業、個人にすべての損失を賠償しなければならない」を掲載した。

 20日午前、国務院新聞弁公室は中国商務部対外貿易課の張驥(ジャン・ジー)課長を招き記者会見を開催した。
 席上、ベトナムの暴力的反中デモの影響について記者から質問があった。

 張課長は、ベトナム側は一切の暴力行為を制止するよう対策しなければならない。
 また犯罪者を厳しく罰するとともに中国企業、個人が被ったすべての損失を賠償しなければならない
と主張した。

 その上で
★.中越貿易は2013年に「654億8000万ドル(約6兆6400億円)」と前年比30%増もの急成長
を見せているが、
 これ以上事態が悪化するようならば貿易の健全な成長にも悪影響が生じ、
 ベトナム経済を損なうものになる
だろう、
と警告している。


 下の記事は「対ベトナム、いい子いい子戦術」だろう。
 つまり、ベトナムを追い込まないように配慮した「アメ作戦」である。


レコードチャイナ 配信日時:2014年5月21日 11時12分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=88402&type=0

ベトナムの「反中」は表看板、
欧米が支援する反政府組織が背後に―中国紙

 2014年5月20日、環球時報によれば、ベトナムで反中デモが激しさを増しているが、ベトナムは米国との間でイデオロギー上の確執が以前からあるため、
 日本やフィリピンとは異なり米国と軍事同盟を結ぶ可能性は少ないという。

 今回のベトナムでの反中デモでも、米国の影がちらつく。一部のメディアはベトナムのデモを伝える際に「Viet Tan」という反共産主義の扇動グループを取り上げた。
 米国に本部を置くこのグループは、旧南ベトナム政権の亡命者を中心に構成され、ベトナム政府の影響も及ばないと英BBCは報じている。

 こうした旧南ベトナム系の組織やベトナム国内の地下組織にはグエン・カオ・キ元南ベトナム首相が海外に作った多数の亡命者を構成員に持つ団体などから、毎年多額の資金が流れているという。

 また、元海軍副司令が1980年に米カリフォルニア州で新党を立ち上げ、タイに武装訓練施設まで設立し、現在も米国の援助を受けながら武力による現ベトナム政府の転覆を謀るなど、旧南ベトナム系団体は海外で根強い勢力を保ち、現在は「反中国」を表看板に国内の政情不安をあおっていると記事は指摘している。


  中国がベトナムを追い込めば追い込むほど、ベトナムだけでなくアジア諸国の中国への警戒心を高めることになる。
 周辺諸国はベトナムの推移を目をこらして注視している。
 中国がベトナムに「降参の旗」を上げさせることは簡単である。
 しかし、そのことは中国にとっていいことかどうかはわからない。
 中国は尖閣問題の敗北で王道から覇道を進むことを選択している。
 中国がアジア布武として覇道を唱えれば、周辺諸国は中国に屈せざるをえないだろう。
 だがそのことは、心に染み込む中国憎しの感情が怨念となって鬱積する結果を生む。
 覇者となったとしても、表面的迎合と内的憎悪とに満ちた諸国を相手にすることになる。
 中国の夢は中華思想である。
 それは朝貢思想である。
 周辺諸国が果たして進んでそれを受け入れるかである。


サーチナニュース 2014-05-22 07:59
http://news.searchina.net/id/1532994

中国政府、中越貿易の成長を強調
・・・一方で反中デモを非難、「経済カード」で圧力か=中国メディア

 中国政府・商務部対外貿易司の張驥司長が同日の記者会見で、双方の長年の努力によりベトナムとの2国間貿易が急成長したことを強調する一方で、ベトナムで発生した反中デモを非難した。
 新華社が20日付で伝えた。

  記事は、張司長が
 「近年、中越2国間貿易は急速に発展しており、中国はベトナムにとって最大の貿易パートナーとなっている」
と語り、2013年の貿易額が前年同期比30%増の654億8000万米ドル(約6兆5480億円)に達したことを挙げたと伝えた。
 そして
 「現在の規模まで発展したのは、中越両国の長年にわたる努力の結果であり、容易なことではない」
と語ったとした。
 張司長はそのうえで、ベトナムで起きた反中デモについて
 「中国企業を含む外資企業に巨大な損失をもたらした。
 さらに局面が悪化するようなら、国民感情を傷つけるのみならず、両国企業の信用にも影響する。
 中国はそれを望んでおらず、ベトナム経済にとってもマイナスだ」
と発言。
  ベトナム側に対して、事件の再発防止、中国企業に与えた損失の挽回を求めた。

  ベトナムは先月、財政難を理由にハノイ市の2019年アジア大会開催権を返上した。
 中国との貿易関係が冷え込めば、国内経済がさらに苦しくなる可能性があり、今回の中国側の発言からは、
 ベトナムに対して「経済的なカード」を振りかざし、圧力をかけようとの意図がうかがえる。



レコードチャイナ 配信日時:2014年5月22日 10時41分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=88465&type=0

ベトナム、中国企業の損失の賠償を承諾
=中国は「有効な措置とっていない」と不満―中国メディア

 2014年5月22日、京華時報によると、中国政府がベトナムに反中デモによる中国企業の損失を賠償するよう求めていた問題で、ベトナム南部のビンズオン省人民委員会のTran Van Nam副会長は賠償に応じる考えを示した。

 中国政府の部門間作業グループを率いる劉建超(リウ・ジエンチャオ)外務次官補は、Tran Van Nam副会長らと現地で会談し、先日、ビンズオン省で発生した大規模な暴動について、
 「ベトナム側はいまだに中国企業と中国人を守るための有効な措置をとっていない」
と強い不満を表明。
 中国側は犯罪分子の厳しい処罰と、中国企業の損失の賠償、現地中国人の安全確保などを求めた。

 これについてTran Van Nam副会長は、
 「法に基づいて中国企業が被った損失を補償する」
とし、
 「教訓をくみ取り、警備を強化して中国企業と中国人の安全確保のための措置を講ずる」
と述べた。





【輝かしい未来が描けなくなった寂しさ】


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